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Mammu, es Tevi milu ママ、愛してる

ラトビア映画 (2013)

バルト三国の子供映画は稀な存在で、今回初めての紹介となるラトビアは、他に、『Jelgava 94』(2019)という映画が手持ちであるだけ。エストニアには手持ちが3つあり、そのうち、『Vilko dantų karoliai(狼の歯の首飾り)』(1997)と『Ashes in the Snow(灰色の地平線のかなたに)』(2018)は、かなり前に紹介が終わっている。残りは『Balkonas』(2008)のみ。 最後のリトアニアは、未紹介だが手持ち5点と最も多い。これら10点中で、IMDbが7.5と高得点なのは、この映画と『Balkonas』のみ。この映画は、2013年のアカデミー外国語映画賞のラトビア選出映画で、2014年のラトビア映画祭で作品、監督、主演女優賞を獲得した他、ベルリン国際映画祭のジェネレーション部門(子供向け映画)の最優秀賞、コペンハーゲンで行われるバスター国際子供映画祭とロセンゼルス映画祭で脚本賞、チェコのズリーン映画祭の観客賞を受賞している。地元ラトビアのメディア(LSM.LV)の2014年12月12日のサイトでは、「『ママ、愛してる』のクリストファー、シャイなティーンエイジャーはハリウッドを夢見ていない」と題して、撮影から2年経った主演のクリストファーのインタビューを交えて映画の紹介をしている。読んでいて面白かったのは、①冗談でオーディションを受けたら通ってしまい、サクソフォンの練習が大変だった。②一番腹が立ったのは、母に頬を引っ叩かれた時(本当に叩いている)。③クリストファーは首都リガではなくCēsis(ツェーシス)という古都の住民のためか、映画祭には参加しなかった。だから、彼に2作目はない。下の写真は、そのサイトでのインタビュー動画の笑顔 。

この映画の優れたところは、よく練られた脚本にある。ごく普通の少年レイモンドが、まるで蟻地獄に捕まったようにどんどん危機に追いやられていく。それも、ハリウッドにありがちなとんでもなくあり得ない危機ではなく、如何にもありそうなこと。それでいて、その先がどう展開していくのか、まるで予測がつかない。だからハラハラドキドキさせられる。レイモンド役で主演しているクリストファー・カナヴァロフ(Kristofers Konovalovs)は、これ1作で映画界から去ってしまったが、観客の心をつかむだけの謙虚さ、真面目さ、素直さを持っている。それが、この映画のもう一つの魅力と言える。最後の魅力は、ニュースでも全くと言っていいほど伝わってこないラトビアの人々の生活の断面が、垣間見れること。それは、映画の持つ本質的な特性なのだが、こうした小国の場合、特に効果的だ。

レイモンドはラトビアの首都リガに暮らす ごく普通の12歳の少年。特徴と言えば、サクソフォンが吹けて、キックボードが得意で、女の子が嫌い。代わりに、少しワルの同年の少年ペテリスと付き合っていて、シングルマザーで産科医でもある母には、それが気に入らない。レイモンドがいつ父を失ったのかは、映画の中で一切出てこないので分からないが、母は、目下、他の男性との交際に熱心で、レイモンドは “どうでもいい” と忘れ去られている。おまけに、母の悪い癖で、興味がないくせに、厳しくて口うるさい。2012年の11月初めのある日、レイモンドはペテリスに呼ばれて、彼の母が週1回の掃除を任されているマンションの1室に入って行く。ペテリスは、いつでもマンションに入れるよう、母から鍵をくすねると、それを見つからないようにと レイモンドに渡す。その同じ時、ペテリスが一緒に持ち出したブラジャーが発端になり、レイモンドが犠牲になる形で、生活指導室に行かされる。彼は、生徒が常に持っている成績ノートの通信欄に、母への注意事項が書き込まれ、母のサインをもらうよう迫られる。これが最初の危機。レイモンドは、注意事項を削除したページを作り直し、元のページは破棄する。しかし、生活指導の教師が怪しんで何度も自宅アパートに電話をよこしたので、レイモンドは電話機のコードを引き抜き、通話不能にしてしまう。そして、それを知った母に、問答無用で引っ叩かれる。怒ったレイモンドは大事なサクソフォンを持って家出するが、泊まる当てがなく、持っていた鍵でマンションに侵入すると、そこにオーナーと売春婦が入ってくる。レイモンドは見つからずに済んだが、コトの済んだ売春婦は、マンションの中の品物と一緒に、サクソフォンも盗んで行き、レイモンドも追うが、すぐに故買商に売られてしまう。これが第2の危機。その週の金曜には学校主催のコンサートがあり、レイモンドはそこでサクソフォンを吹かなくてはならないのに、それが無くなってしまったのだ。それなのに、母は演奏会に行くと主張し、レイモンドには盗まれたと白状する勇気がない。これが第3の危機。切羽詰まったレイモンドは、マンションに再侵入し、かつてペテリスがやっていたようにお金を盗すもうと決心する。ところが、その最中にオーナーが現われ、犯行がバレてしまう。これが第4の危機。警察は、容疑者としてペテリスを留置し、レイモンドを参考人として呼ぶ。オーナーよる面通しでは、顔馴染みのペテリスが犯人だとされ、レイモンドは無罪放免されるが、良心に苦しめられる。そして、思い切った行動に…

あらすじ

映画の冒頭は、断片的な映像。①学校のオーケストラでレイモンドがサクソフォンを吹いている。②真っ暗になった街路を、レイモンドがキックボードを蹴ってアパートに向かう。③自分の部屋から洗濯する服を持って出たレイモンドが、バス・トイレ・洗面が一体化した部屋に “テキトー” に置いてあった母の服を取り上げると(1枚目の写真、矢印)、自分の物と一緒に洗濯乾燥機に入れる。④レイモンドが歯を磨いていると、母が外出用のコートを着ている。そこで、歯ブラシを口に入れたまま寄って行く。「気に入った?」。「OKだよ」。母は、「レイモンド、女性に向かって 『OKだよ』 なんて絶対言っちゃダメ」と文句。「大き過ぎも、小さ過ぎもしてない。クールだね、好きだよ」。「色は?」。「秋にぴったり」。「夜のシフトだから、遅くなる。後は、任せるわ。いいわね?」。「いいよ」。「ウィー〔任天堂〕で遊びたい?」。「うん!」。「でも、真夜中過ぎまでやっちゃダメよ」。そう言うと鍵で棚を開け、ゲーム機を取り出す。管理が異様に厳重だ。レイモンドがゲーム機の入った手下げ袋を持って自分のベッドに座った途端、母の鋭い声が洗面所から響く。「何を洗ってるの?」。「僕らの服だよ」。「私のブラウス、中に入れたの?」。レイモンドが洗面所まで行くと、母が洗濯機を止めて開け、中からブラウスを取り出し、「こんなに傷んじゃって。今夜着るつもりだったのよ!」。「僕に分かるワケないよ」(2枚目の写真)。「なら、勝手なマネはやめなさい! 今夜はウィーはなし! 勉強とサクソフォンの練習をなさい!」。レイモンドが自室に行き、2階の窓から覗くと、出て行った母が迎えに来た男性と仲良さそうに会っている〔夜のシフトは嘘で、バツイチの母はデート〕。それを見て悲しそうな顔をしているレイモンドの横に、映画のタイトルが表示される(3枚目の写真)。とても、「ママ、愛してる」という雰囲気ではない。

レイモンドが、リガ市内の幅広いメインストリートをキックボードで疾走する(1枚目の写真)。左側に見えるのはリガの市電。世界一の規模と言われるサンクトペテルブルグの市電(全長200キロ以上〔嘘のウィキペディア以外、どこにも正確な数値が見つからない〕、路線数37〔https://www.electrotrans.spb.ru/〕)と比べると、リガ市電は全長124キロ、路線数6〔https://www.rigassatiksme.lv/〕と、路線数こそ少ないが、全長は、人口が8分の1強しかない割に長い〔日本の最長は 高知のとさでん交通の25キロ〕。レイモンドが、親友のペテリスに言われた場所まで来ると、豪華そうなマンションのテラスからペテリスが身を乗り出し、「1、0、3、1、0」と叫ぶ。レイモンドは、マンションの入口にあるオートロックに、教えられた暗証番号を入れる(2枚目の写真)。ドアをノックするとペテリスがすぐ出て来て、「ママには、ゴミ出しを手伝いに来たと言え」と注意して中に入れる。レイモンドは、掃除中のペテリスの母に、「お早う」と声をかける。「ここで、何してるの?」。「ペテリスのゴミ出しを手伝いに」。「ゴミなんてないわ。オーナーは滅多にここに来ないから、いつも完璧にきれいにしてるのよ」(3枚目の写真)〔ペテリスの母は、この部屋の掃除を任された使用人。そこに、息子のペテリスが母に無断でレイモンドを招じ入れた〕。ペテリスは、「ママ、僕、オートバイを見せようと思ったんだ」と弁解する〔なら、最初からそう言えと指示すればいいのに、ぺテリスも要領が悪い〕。母親は了解するが、「靴を脱いで!」と命じる。

レイモンドは、「お母さんがいつも掃除してるなら、次からどうやって入るの?」とペテリスに尋ねる。「掃除は月曜だけさ」。レイモンドが物珍しげにあちこち見ていると、ペテリスが棚の中から勝手にブラジャーを取り出して レイモンドの顔にぶつける。床に落ちたブラジャーを拾ったレイモンドと、ペテリスは、ブラジャーを奪い合って遊ぶ(1枚目の写真、矢印)。次のシーンでは、ペテリスが、母親のハンドバッグの中から鍵束を取り出し、この部屋の鍵を取り出す。そして、自慢げにレイモンドに見せる(2枚目の写真、矢印)。マンションの玄関から外に出た所で、ペテリスは、「鍵持ってろよ」と渡そうとする。「どうして?」。「ママがポケットを検査する」。かくして、レイモンドが鍵を預かることに。そして、レイモンドはキックボードで、ペテリスは自転車で寂れた街路を走る(3枚目の写真)。

学校のオーケストラの練習室で、レイモンドがいつもの席に座ると、これも いつもの年上の女生徒がやって来て隣に座る。レイモンドが、「フェイスブックで、君に友達リスクエストした。なぜ承認しなかったの?」と訊く。「見てないわ」。その時、悪戯者のペテリスが、マンションから盗んできたブラジャーをレイモンドの目に被せる(2枚目の写真)。レイモンドは、すぐに取って投げ捨てたが、それを見て不愉快に思ったのか、フェイスブックが気に食わなかったのか、年上の女生徒が、「席、移りなさいよ」と言い出す。「なぜ?」(3枚目の写真)。「私が そう言ったから」。

腹を立てたレイモンドは、投げ捨てたブラジャーを拾ってきて、女生徒のセーターの背中に突っ込む。女生徒は 「このバカ!」とレイモンドを罵ると、ブラジャーを投げ捨て、仲間の方に逃げていく。その隙に、レイモンドは 拾ったブラジャーを女生徒のサクソフォンのベルと呼ばれる朝顔管の中に突っ込む(1枚目の写真、矢印)。指揮担当の教師が来て練習が始まるが、さっきの女生徒の様子が変なので(2枚目の写真、ピンクの矢印は音が出なくて困っている女生徒。黄色の矢印はレイモンド。2人は隣り合っていない)、教師は指揮をやめて、「クリスタ、どうした?」と訊く。クリスタは 「ごめんなさい。でも、誰かがこれをサクソフォンに入れました」と言って、ブラジャーを教師に渡す。「誰がやった?」。誰も答えない。「バカどもが!」。これで無事に済みそうだったのに、意地悪なクリスタは、「彼がやりました」とレイモンドを指す。サクソフォンに入れたところは誰にも見られていないので、レイモンドは否定するが、「前にもやったじゃない」と言われ、それを正しい告発だと思った教師は、レイモンドにブラジャーを持たせ、生活指導室に行かせる(3枚目の写真)。レイモンドは中に入りたくないので、ドアノブにブラジャーを掛けて、そのまま頬かむり。

そして、ランチ・タイム。レイモンドはペテルスに生活指導室のドアノブのことを話し、それを聞いたペテルスは 悪戯好きなので相好を崩す。その時、ペテルスのすぐ横にクリスタが割り込んだので、ペテルスは 「おい、密告屋。気分爽快か?」と嫌味を言い(1枚目の写真)、クリスタの去り際に背中をつまむ。ところが、この本質的に意地悪なクリスタは、近くのテーブルにいた指揮者の教師のところに行くと、「彼、私をつねりました」とレイモンドを告発。何もしていないレウモンドが教師に呼び付けられ、彼が 指導係に会えなかったと嘘をつくと、一緒に指導室まで連れて行かれる。指導係の女性教師は、レイモンドが持ち歩いている成績ノートの下の通信欄に、「攻撃的かつ性的な行動について、レイモンドとよく話し合って下さい。彼は、女生徒をブラジャーで脅したのです」と書き込み、「この下に、両親の署名をもらってきなさい」と命じる。レイモンドは、部屋から出ると、成績ノートの該当ページを “破ったことが分からない” よう丁寧に破ると、それを脇に置き、空欄のページに、破り取ったページの上部の成績欄の文字を書き写す(3枚目の写真)。

レイモンドは夕方近くになって、母が勤める病院に行く。受付けの女性とは顔見知りなので、「ママは、今 レッスン中よ」と教えてくれる。そして、レイモンドがレッスン・ルームに行こうとすると、“部屋で待っているよう母が言っていた” と指示され、母の部屋に行く。しかし、外が真っ暗になっても母は現れず、待ちくたびれたレイモンドは、レッスン・ルーム等が面している外廊下をキックボードで走り抜け、その先の屋上でキックボードをジャンプさせて遊ぶ(1枚目の写真、①はキックボードの影、②はレイモンドの脚の影→かなり高く飛んでいる)〔当然、下に響く〕。母は、すぐに飛んでくると、「レイモンド、中に入って!」と命じる。「ママ、5分だけ」。「今すぐ!」。レッスン・ルームに戻った母は、4人の女性を前に、陣痛を減らすためのスタイルを教える(2枚目の写真、矢印はレイモンド)。レッスンが終わった後、レイモンドと一緒に廊下を歩きながら、母は、屋上での行為を叱り、「患者さんはどこにでもいて、お金をいっぱい払ってるのよ。私に、また恥をかかせたわね」と、機嫌は最悪。それは、病院内の部屋に行ってからも同じで、難しい顔をして成績ノートを提出させると、怖い顔でチェック(3枚目の写真)。成績については、「よろしい」の一言。「もう1週間、通信欄は空欄にね!」と、そっけなく言ってノートを返す。そして、ドアを開け、隣の部屋の机の前までレイモンドを連れて行くと、そこで宿題をするよう命じる。

翌日、ペテルスとレイモンドは オーケストラの練習をスキップし、マンションに忍び込む。首謀者はペテルス。はっきり言って、彼はレイモンドの友人としては相応しくない。途中 舗道に乗り上げている車を見つけると、運転席に乗り込み(1枚目の写真)、エンジンをふかして悪戯する。マンションの階段を上がり、部屋の前まで来ると、中にオーナーがいると大変なので、ドアをノックしてすぐに隠れ、様子を窺う。そして、誰もいないことを確かめると、レイモンドに預けておいた鍵でドアを開けて中に入る。ペテルスは、部屋の中に飾りで置いてあるオートバイに乗り、エンジンをかけてふかす〔部屋の中が臭くなり、オーナーに気付かれるハズだが…〕。途中で、交替し、レイモンドがオートバイに乗る。その間に、ペテルスは、定位置に置いてある財布の中を覗く(2枚目の写真、矢印)。それに、レイモンドが気付いたので、「少し、欲しいか? 彼、中味をチェックしないんだ」と訊く。「何で、そんなこと分かる?」。「前に、もらったからさ」。そう言いながら、少額紙幣を1枚ポケットに入れる。レイモンドは、それを止めようとしないので、同罪とも言える〔朱に交われば赤くなる〕。ペテルスは、オーナーのサングラスをはめ、「僕がここに掃除に来た時、彼、2人の女と一緒にベッドにいたことが一度あった」と話す。その後は、冷蔵庫を開けて中のものを食べ、「時々、一人で暮らしたいと思うんだ」とも話す。「どこに住むの?」。「ここさ」。「お金はどうするの?」。「街でドラムを演奏する」。「幾らもうかる?」。「1日で40」〔ラトビアの通貨は2012年はラッツ。当時の円相場で約5800円〕。「40? 5じゃないのか?」。「賭けるか?」。「もち」。そして、ペテルスは実際に街角に立ってドラムを叩き、通行人がお金を入れる(3枚目の写真、右の矢印がレイモンド)。

そのあと、レイモンドが 普通より格段に遅れて学校に行くと、入口で、指導係の女性教師とすれ違う。彼女は、レイモンドに 「お母さんは、私の報告にサインした?」と訊く。「はい」。「見せて」。「家に忘れました」(1枚目の写真)。教師は了解したが、信用したとは思えない。レイモンドが家にいると、母が帰って来て洗面所に入る。そこに、電話がかかってくる。レイモンドは、すぐに電話を取るが、それは、先ほど会った女性教師からだった。レイモンドの応対が信用できなかったので、直接母親に電話して確認しようとしたのだ(2枚目の写真)。レイモンドは、母にも聞こえると思い、「いいえ、結構です」と、セールス電話だったように、ガチャンと切る。ますます怪しいと思った教師は、すぐに電話を掛け直す。レイモンドはしばらく放っておいたが、一向に切れないし、そのうち母が出てくるかもしれない。そこで、電話機をひっくり返してみるが切る手立てがない。そこで、電話機から伸びる線を辿って壁の下のコードの差し込み口を無理矢理引っ張って壊してしまう(3枚目の写真、映像がブレているのは、思いきり引っ張ったため部品が壊れ、体が急に動いたため)。

仕事で疲れた母は、「電話があったら起こして」と言って寝室に入る。レイモンドは受話器を耳に当てるが、当然何も聞こえない。そこで、引き抜いた銅線を何とか突っ込んで受話器を取るが、それでも不通になったままだ。そこで、セロテープを巻きつけて、見た目だけは元に戻したが、不通であることに変わりはない。夜遅くなり、レイモンドが小型のダーツボード〔投げ矢〕で遊んでいると、玄関のチャイムが鳴る。チャイムが執拗に鳴らされるので、レイモンドがドアを開けると、そこには病院の男性が。「今晩は。クラスタ先生は在宅かい?」。レイモンドは、「ママ!」と呼ぶ。男は、「家まで押しかけて申し訳ありませんが、連絡の方法がなかったもので。看護婦が、破水で陣痛が始まったと言っています」と弁解する。「今すぐ行かないと。家に電話するよう言ったのに」。「やったのですが、つながらなくて」。母は受話器を取るが、発信音がしない。怖くなったレイモンドは洗面所に退避する。母は 「下で待ってて、すぐ行くから」と、男を追い払うと(2枚目の写真)、「レイモンド、病院に行くから、出てらっしゃい」と声をかける。「歯を磨いてる」。「後で、磨けばいいでしょ! ほら、心配しないで」。レイモンドがドアを開けて出てくると、その瞬間、母の猛烈なビンタが頬を襲う(3枚目の写真)〔インタビューで「一番腹が立った」と言っていたシーン。すごい勢いなので、写真がほとんど分からないほどブレている。矢印は母の手〕。「何て子なの!?」。あまりの痛さに、レイモンドは頬を手で押さえたまま、うつむいている〔それにしても、電話が不通になっただけで、いきなり叩くのはあまりにひどい。電話機の故障かもしれないのに〕

自分の部屋でしばらく考えたレイモンドは、成績ノートを1枚破ると、通信欄に、「ママなんか嫌いだ。さよなら!」と書き込む(1枚目の写真)。そして、それをワードローブの母のコートのポケットに突っ込む。そして、サクソフォンをケースから出し、朝顔管の中に 食糧としての果物を2個入れる(2枚目の写真)。そして、ケースを背負うと、キックボードを持って部屋を出る。夜の街で、どこに行くべきかレイモンドは迷うが、結局、行ったのは、キックボードの曲乗り練習用のスケートパーク。そこで楽しんでいると(3枚目の写真、突起上でジャンプした瞬間)、突然電気が消える。「閉館だ。全員出ろ!」。レイモンドは、「もうちょっと いちゃダメ?」と訊くが(4枚目の写真)、「その分、ベッドで長く寝るんだな」と言われてしまう。

居場所を失ったレイモンドは、夜の街路をキックボードを蹴って走る(1枚目の写真)。そして、交差点の角に座って、これからどうすべきかを考える(2枚目の写真)。そして、向かった先が、最悪の場所。ペテルスから鍵を預かったマンション。その部屋に、無断で侵入する(3枚目の写真)。これまでは、ペテルスと一緒だったが、1人での侵入は完全な犯罪者だ。

レイモンドは、恐らく、“こんな夜遅くなっても誰もいないのだから、今晩オーナーは来ない” と思ったに違いなく、不用心にもお風呂に入ってしまう。そして、握力を鍛えるハンドグリップを触っていると、ドアの鍵が開く音がし、一瞬全身が凍りつく(1枚目の写真)。大慌てで湯を止め、浴室の電気を消す。廊下の電気が点き、くぐもった声が聞こえるので、オーナー、プラス1人が入ってきたことが分かる(2枚目の写真)。レイモンドがカーテンを少し開けて覗くと、バルコニーで、オーナーの男性と、売春婦のような女性がふざけている。レイモンドは、この隙に逃げようと、パンツ1枚で廊下を走り、途中でキックボードを回収して居間に入り、大至急服を着る。

着終わると、男女2人が寝室に入って行く。寝室のドアが開いているかもしれないので、レイモンドはカーテンの後ろに隠れてじっと待っている。すると、女性が部屋から1人で出て来て、真っ暗な室内を物色し、金目のものを盗んでいるのが見える(1枚目の写真、増感しても分からないくらい真っ暗)。女性が出て行った後で、自分も逃げ出そうと玄関まで行くと、そこに置いておいたサクソフォンの入ったケースがない!(2枚目の写真)。レイモンドが近くの窓から下を見ると、女性の右手にはケースが握られている(3枚目の写真、矢印)。レイモンドは、急いで後を追う。最初は、徒歩と徒歩だったので〔キックボードを使うと音がする〕よかったが、途中で女性が車に乗ると、キックボードで必死に追いかける。女性は故買商的な古物商の前で車を下りると、盗んできたものを、サクソフォンを含めて全部売ってしまう。女性が出た後でレイモンドが店に入ろうとすると、24時間営業とかいてあるのに、もう閉まっていてドアが開かない。そこで、女性を追いかけることにする〔売ったお金を取り戻そうとした?〕

女性が、半地下にある部屋への階段を降りかけたところにレイモンドが追いつき、女性も自分がつけられていたことに気付く(1枚目の写真)。レイモンドは 「僕のサクソフォン、返して」と要求する(2枚目の写真)。「何て?」。「サクソフォンだよ」。「どのサクソフォン?」。「あんたが マンションから盗ってった!」。「あそこに住んでるの?」。「ううん」。「なら、なんで?」。「ママが、あそこを掃除してる」〔もっと上手な嘘をつけばいいのに…〕。これで御しやすいと思ったのか、女性は、近寄ると いきなりレイモンドの左手をつかんで揉み、次に両手でさする。「手が冷たいわね」。手をさするスピードを上げる。気味が悪くなったレイモンドは手を引き抜く。すると今度は、右手で首を抱こうとしたので(3枚目の写真)、恐ろしくなって体を離し、自分のアパートに逃げ帰る。

翌朝、母が帰宅すると、レイモンドはまだベッドで寝ている。「起きて!」と何度言っても起きない。それで、布団を剥ぎ取られる。レイモンドは、横に上着を置き、あとは外出時のままの姿で うつぶせになっている。まぶしくて目が開けられないのか、手で顔を押さえたまま 仕方なく体を起こす(1枚目の写真)。「なぜ、服を着たまま寝てるの?」。「昨夜、歩きに行ったから」。「いつ?」。「夜だよ」。「夜って? 私は昨夜ここを出たのよ。誰と一緒?」。「ペテルス」。「道理で」。レイモンドが洗面台の鏡の前に立つと、母が、昨日のことで質問する。「電話はどうなったの?」。「ノートの通信欄に悪いこと書かれたから、破って捨てた。そしたら、電話をかけてきたんで、コードを引き抜いたんだ。壊すつもりはなかった」。「通信欄には何て?」。「態度が悪いって」。ここで、レイモンドは反論に出る。「だって、仕方ないだろ? ママは、ちょっとしたことで、すぐにキレるんだから」(2枚目の写真)。「そうかもしれないわね。でも、理由があるの。私には病院も、妊婦のレッスンも、夜のシフトもあって疲れてる。何のため? あんたに朝食を食べさせるためよ〔これは、いくらなんでも大げさ〕。だから、深夜に歩き回ったり、学校で悪い振る舞いをするなんて許せない」。レイモンドが歯を磨き続けていると、「こっちが話してるんだから、ちゃんと顔を見なさい」と叱る。「こういうことをしてると、村のお祖母ちゃんと一緒に暮らして、夏だけ会うことになるわね」〔この母親は、彼氏とのデートには熱心でも、息子に対する愛情には大きく欠ける〕。「早く用意して。学校に遅れるわよ」。レイモンドが、玄関で出かける準備をしていると、「今日は、オーケストラしないの?」と訊かれる。「するよ」。「サクソフォンはどこ?」。「ロッカーに置いてきた。重いから」(3枚目の写真)。「持ち帰りなさい。高価なプレゼントでしょ」。

母に あんなことを言われた以上、サクソフォンを何としても取り返さないといけない。そこで、レイモンドは学校ではなく、古物商の店に直行する。店に入ると、正面の棚にサクソフォンが置いてある。そこで、サクソフォンを見せるよう頼む。渡されたサクソフォンをひっくり返すと、朝顔管から昨夜入れた果物が出てくる(1枚目の写真)。そこで、自信を持って 「これ僕のだ!」と主張する(2枚目の写真)。店主は、如何にも故買商らしく、「120〔≒17000円〕寄こしたら、自由に持ってっていいぞ」と言う。「警察に届けたら?」(3枚目の写真)。「好きな奴を呼んで来い」。相手の堂々とした態度にレイモンドは何も言えない〔警察に届けたら、自分が、不法侵入したことがバレてしまう〕

オーケストラの練習場に行ったレイモンドは、指揮担当の教師に、「サクソフォンが壊れました」と嘘をつく。「どうしたんだ?」。「Lowキーが動きません」。「今、どこにある?」。「ママが修理に出しました」。教師は、「誰か予備のサクソフォンを持ってないか?」と訊く。「クリスタ〔あの、意地悪娘〕が持ってます」。「今、どこにいる?」。「運動のクラスです」。教師はそれ以上何もしてくれないので、レイモンドは自己判断でクリスタに貸してくれるよう頼みに行く。クリスタは、もう1人の友人と一緒にクラスから出て来る。レイモンドは、さっそく、「予備のサクソフォン持ってるって聞いたんだけど」と話しかける(1枚目の写真)。「それで?」。「僕に貸してくれない?」。「なぜ?」。「僕の壊れちゃって、コンサートは明日だから」(2枚目の写真)。「見返りは?」。「何がいい?」。「脚に5回キスなさい」。「正気なの?」。「なら1回でいいわ。そしたらサクソフォンはあんたのモン」。「ホント?」。「そうよ」。そこで、レイモンドは、クリスタの前に跪くと、屈辱的な行為をしようと脚に唇を近づける(3枚目の写真)。意地悪クリスタは、いきなり後退すると、「尻込みするかと思ったわ。サクソフォンなんか持ってない。パパが売っちゃった」と言って、平然と去って行く。

レイモンドは、木工のクラスが終わった後、手洗い場でペテルスに訊いてみる。「マンションのあのオーナー、よく部屋にいるの?」(1枚目の写真)。「酔っ払ってやってきて、出てくんだ」〔正しい答えになっていない〕。「どのくらいのお金 盗ったの?」。「数えてない」。「今夜行こう」。「今夜は、ママの手伝いだ」。学校の帰り、レイモンドは思い切ってマンションに入って行く。しかし、入ってすぐのところで電気工事の職人が作業をしていたので、怖くなって決行をやめる。その夜、アパートで、レイモンドは、母から、「生活指導の先生と話したわ。横に座りなさい」と言われる。何を叱られるか、恐る恐る座ると、母は、「ブラジャーを女の子に投げつけるなんて、行儀悪いわね。あなたには、すぐにガールフレンドができる」と、いつもの叱り方とは様子が違う〔母の態度が変わったのは、息子が思春期に入ったと思ったから〕。「できないよ」。「いつか、できるわ」(2枚目の写真)。「クラスに好きな娘はいないの?」。「ぜんぜん。去年までは良かったけど、今はサイテーなんだ」。母は、レイモンドを抱き寄せる。「私たち お互いに気を付けないとね。分かる?」。「窒息しかけてるよ」。「あなたに会って欲しい同僚がいるの」(3枚目の写真)「きっと、いい友達になるわ。だから、彼を明日のコンサートに招待したの」。

この意外な一言で、レイモンドは “甘えの姿勢” から一転して体を起こし、母を不安そうな顔でじっと見つめた後、“どうしたの?” という母の顔に耐えられず、目を伏せる(1枚目の写真)。「今度のコンサートはやめて」。「なぜ?」。「僕、ヘマするから」。「ヘマなんかしない。練習してきたでしょ。終わったら、映画かレストランに行きましょ」。「土曜日にしたら?」。「土曜日には、もし明日ちゃんと演奏できたら、インドア・スカイダイビングに連れて行ってあげる。そのあと、花火見物」。それを聞いたレイモンドは、ソファに横になり、翌朝やるしかないと決心する(3枚目の写真)。夜が更け、ベッドに入ったレイモンドに、母は、「サクソフォン、持って来た?」と訊く。「ううん、まだ学校」。「失くしたんじゃないわよね?」。「違うよ」(4枚目の写真)。

翌朝、アパートを出ると、レイモンドは一目散にマンションまで走り、部屋に侵入する。そして、定位置に置いてある “お札とコインの入れてあるブランデーグラス” を棚から取ると、中に入っていた封筒の中のお札を確認する(1枚目の写真)。そして、封筒を口にくわえ、グラスの中を見ていると、鍵が開きオーナーが入ってくる。びっくりしたレイモンドは、ブラスを戻そうと思い、戻し損ねて床に落ち、凄まじい音とともに、コインが飛び散る(2枚目の写真)。オーナーは逃げて行くレイモンドの後ろ姿に向かって 「見つけ出したら、足をもぎとってやる!」と叫ぶ。レイモンドはお札の入った封筒を持って必死に走る(3枚目の写真、矢印)。レイモンドは故買商の店に行くと、「40ラッツ〔≒5800円〕、60ユーロ〔≒6000円〕、200ノルウェー・クローネ〔≒2700円〕ある」と言ってお金を示す〔円で総額を見ると14500円になり、店主の言い値17000円を下回る〕。お札を調べた店主は、「スウェーデン・クローネだぞ」と言う〔200スウェーデン・クローネは2300円〕。「構わないだろ」。その言葉の平然さに、警察沙汰を怖れたのか、サクソフォンなど誰も買わないと思ったのか、最初の言い値が “ふっかけ” だったのかは分からないが、店主は、言い値の83%の金額で売り、レイモンドはサクソフォンのケースを大事そうに抱えて店を出てくる(4枚目の写真)。

そして、学校の講堂か、別の施設かは不明だが、コンサートが始まる(1枚目の写真)。レイモンドも、取り戻したサクソフォンを吹いている(2枚目の写真)。それを聞きにきた母は、彼氏に息子の自慢でもしているのであろう(3枚目の写真)。

しかし、この幸せなムードは一瞬で終わる。演奏が終わり、演奏者を含め、全員が立ち上がって拍手する。レイモンドが嬉しそうに母を見上げていると、警官が入り込んで来て、母に何事かを話しかけ、一緒に外に出て行く。それを見たレイモンドの心は、心配で張り裂けんばかりに(2枚目の写真)。レイモンドが、大勢の演奏者や聴衆と一緒にゆっくりと階段を下り、混雑を抜けて廊下に行くと、母の前に2人の警官が立って話しかけている(3枚目の写真)。警官は一旦引き上げたが、当然、映画もレストランでの食事もなし。

次のシーンでは、夜、警察車両に乗せられたレイモンドと母が、警察署の前に着く。レイモンドは、警官と母の後ろを、蒼白な顔でついて行く(1枚目の写真)。2人は、警部の部屋に連れて行かれる。警部は、レイモンドに 「今日の午前11時頃、君はどこにいた?」と訊く(2枚目の写真)。「学校です」。「何をしてた?」。「授業に」。「もっと正確に、どの授業?」。「オーケストラと生物」。母は、「いったいどうなってるのか、説明していただけません?」と口を挟む。「今朝、Greku通り〔架空の場所〕8番地から盗難届けがありました。不法侵入の事件として捜査を始め、ペテルスを拘留しました。レイモンド君の友人です」。母は、「レイモンドの友人なんかではありません」と否定する。「いいですか、彼の母親は、掃除婦として働いています。彼は、母親の許可なく侵入したことを認めました。置いてあったオートバイを吹かしたことも」。ここで、警部がレイモンドをじっと見て、「彼は、盗みは否定したが、君も一緒にいたと話した。レイモンド、君とペテルスは今日、マンションに行ったかね?」。「いいえ」(3枚目の写真)。「だが、行ったことはあるんだな?」。しばらく考えて、レイモンドは 「はい」と答える。「いつ?」。「火曜日」。「何時?」。「午前です」。「10時、11時、12時?」。「覚えてません」。「その間、授業はあったんだね?」。頷く。そこに部下が入って来て、原告のオーナーが来たと伝える。「原告は侵入者を見ている。コートを脱いでついて来たまえ」。

レイモンド、ペテルス、無関係な2人の少年の計4人は、面通しの部屋で並ばされる(1枚目の写真)。最初、覗き穴から見ていたオーナーは、「こんなのバカげてる、面と向かって見ないと」と言い、部屋の中に入って来る。そして、見慣れた顔なので、ペテルスを指して 「彼だ」と断定する(2枚目の写真)。「彼は、掃除婦の息子だろ?」。「ええ」。「こいつだ」。レイモンドは、自分だと言われなかったことにホッとしたが、ペテルスに罪を被せてしまったことに苦しむ。そこに2人の母親が入ってくる。ペテルスの母親は、「盗んだの?」と訊き、「ううん」の返事に、「この嘘つき!」と息子を乱暴に小突き回し、レイモンドはそれを心配そうに見ている(3枚目の写真)。アパートに向かって歩きながら、母は、レイモンドに、「あの子と関わるなと言ったでしょ。これで、あなたにも、あの子の本性が分かったわね」と言うが、彼にとってこれほど辛い言葉はない。

翌、土曜日。レイモンドは、ペテルスが心配で、彼の部屋の窓に小石を投げて、「ペテルス」と呼ぶ(1枚目の写真)。ペテルスは、窓からではなく、側道から姿を見せ、“あっちで待ってろ” と仕草で指示する。両側を塀で囲まれた場所に行くと、ペテルスは、「僕が幾ら盗ったか覚えてるか?」と訊く。「10〔≒1450円〕じゃない?」(2枚目の写真)。「そうさ。前にもちょっといただいたけど、120なんて盗んでない!」〔レイモンドも120は盗んでいない。オーナーが過剰申告した?〕「ちゃんと説明したのに、『嘘付くな』としか言わないんだ!」。「ホットドッグ 食べよう」。2人は、塀を乗り越えて外に出る。ホットドッグを食べていても、2人とも黙りこくって元気がない。ようやく、レイモンドが、「犯行時間に、スケートパークにいたと言ったら? あとは目撃者を見つければいいんだ。そうすりゃ、犯人扱いされないよ」と言う(3枚目の写真)。しかし、この提案は、ペテルスが犯人だという前提での話なので、ペテルスは、「僕は、盗んでない。その頃、通りでドラムを叩いてたんだけど、誰も信じてくれない」と言い、まだ食べていたホットドッグを投げ捨てて去って行く。

ここで、母が木曜に約束したことが実現する。レイモンドは、インドア・スカイダイビングに連れていってもらったのだ。インドア・スカイダイビング〔下からの強い風圧で空中浮遊するスポーツ〕が日本で最初に楽しめるようになったのは、2017年に越谷市にオープンした施設だが、ラトビアのような小さな国でも、2012年の段階でインドア・スカイダイビングがありきたりのスポーツになっている。専用のフライトスーツとヘルメット、シューズを付けたレイモンドは、インストラクターと一緒にウインドトンネルに入り、10メートル近く上空まで上がると水平にくるくる回転する(1枚目の写真)。レイモンドが終わると、次は母の番。順番が来るまで控室で待つ間、レイモンドと話し合う。「花火は何時?」。「9時。同僚も一緒よ」。「彼って、ママのボーイフレンドなの?」。「これまで、時々 夜のシフトと言ったけど、ホントは彼と会ってたの。ママもバカだったわ。お互い、嘘を付くのはやめましょうね」(2枚目の写真)「コンサートの後で紹介したかったんだけど、思い通りにはならなかった。花火大会に警官がいないといいわね」。このあと、母がインドア・スカイダイビングに挑戦する。母の指示で、上り始めたところをスマホで撮影する(3枚目の写真、母はカメラに手を振っている)。

その夜の花火大会。スマホのネットワークがダウンしてつながらない。人手の多い中で “母の彼氏” を見つけることは至難の業だ。そのうちに花火の打ち上げが始まる(1枚目の写真、中央の2人はレイモンドと母)。レイモンドは、“彼氏” を必死に探している母を見て、「ママ、僕がやったんだ」と言う。「何をやったの?」。「お金を盗んだ。僕が明け方近くに帰宅した日、僕はあのマンションに行ったんだ。そしたら、あの男が売春婦と一緒にいた。女はマンションの中の物と一緒に、僕のサクソフォンも盗ってった(2枚目の写真)。「売春婦? いったい何の話?」。「売春婦かどうか分かんないけど、すごく短いスカートだった」。母は、話が複雑になってきたので、「家に帰るわよ」と言い出す(3枚目の写真)。2人が一緒に歩いていると、病院の看護婦たちが、「先生、独立記念日おめでとう」と声をかけるので、この日が2012年11月18日だと分かる。彼女たちが話し合っている隙に、レイモンドは群衆にまぎれて姿を消す。

罪悪感に圧倒されたレイモンドが向かったのは、ペテルスの家。窓に石を投げて、「ペテルス」と呼ぶと、電気が点くが、彼は窓を開けず、手で “向こうに行け” と指示する。レイモンドが、「来いよ」と何度も催促していると、ペテルスの母親がやってきて窓を開け、「何の用だい?」とすげない対応(1枚目の写真)。その上、「失せな! この悪党!」とまで罵られる(2枚目の写真)〔この時点では、レイモンドが真犯人だとは誰も知らないのに、なぜこんな対応をするのか腑に落ちない〕。それでも、レイモンドは、「ペテルスがやったんじゃない。僕がやった」と言う。「今、何て言った?」。「僕がお金を盗んだ」。それを聞いたペテルスが、追いかけてきてレイモンドを突き飛ばし、殴りかかろうとするが、レイモンドは上手に避ける。殴るのを諦めたペテルスが去って行きかけると、レイモンドは 「待って! お願いだ。ごめん。サクソフォンを盗まれて、大変だったんだ。キックボードを売れば、60ラッツにはなる。君にあげる」と すがるように言う。「奴には、全額返さないと。僕は自転車を売る。それでようやく半分だ」〔これも間違っている。盗んだ金額は、オーナーの過剰申告でも120ラッツ。キックボードで60なら、もう既に半分だ。それに自転車を足せば、トントンになるハズ〕。「明日、持って来るよ」。「忘れるなよ。くそったれ」。

レイモンドが家に帰ると、まだ母は帰っていない。彼がやった最初のことは、ワードローブの母のコートのポケットから、「ママなんか嫌いだ。さよなら!」と書いた紙を取り出すこと(1枚目の写真)〔母は、まだ読んでなかった〕。ワードローブを、開けた形跡がないように閉め終わると、鍵を開ける音が聞こえたので、レイモンドはドアの影に隠れる。母は、電気を点けると、「レイモンド?」と呼んで、あちこち探す。しかし、いないと思ってがっかりして居間のソファに座ると、そこからは、ドアの影のレイモンドが丸見えになる(2枚目の写真)。レイモンドは、覚悟を決めてドアの影から出て、母の隣に座る。レイモンドは母の顔をうかがい、自分の手を、そっと母の手の上に重ねる(3枚目の写真)。母は、その手を払いのけたりはしない。2人は見合う。母の顔には、以前のような刺々しさがない(4枚目の写真)。この最後の場面、台詞は一切ない。だが、題名から推して、“許してくれたママを愛してる” というハッピーエンドを意味しているのであろう。それとも、今はまだそこまで行かなくても、今後、母は、もう少し息子のことを思いやるようになり、それが結果的に「ママ、愛してる」に将来なっていくのかも。

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